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朱肉とスタンプ台は同じ色でも中身は全く違います

  1. 印鑑をつくる
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ハンコは朱肉やスタンプ台がないと意味を成しません。
そのためデスクや契約の場面には必ず、朱肉とスタンプ台の両方が置いてあります。
ところが実は、それぞれに相性があるんです。
先に結論から申し上げますと・・・

  • 朱肉=印章(印鑑)
  • スタンプ台=ゴム印

このように使い分けてください。

デスクに置いてあるものが、朱肉と&黒いスタンプ台ならなんとなく、朱肉は丸い印章(印鑑)を、黒いスタンプ台はゴム印を捺すものだと理解できると思います。
だけど迷うのが赤いスタンプ台だったりすると、どっち使えばいいの?なんてなりがち。
でもそれぞれに違う目的で作られていますし、極端な話、砂糖を塩を間違えちゃくらい問題ですので、ご注意ください。

朱肉とスタンプ台は違います

似て非なるものですけど、朱肉とスタンプ台は違います。
なぜなら上記の通り、朱肉は印章のために、スタンプ台はゴム印のために作られているからです。
ではまず、どのような目的で作られているかをお話しします。

朱肉は印影を長く正確に残すもの

朱肉のルーツは非常に古いんです。
誕生は今から約2000年前、印章を紙に捺すために開発されました。
ちなみに世界最古の印章は紀元前6000年頃で、朱肉の誕生までには2000年も差があるんですけど、その理由は紙です。
紙が発明されたのが西暦105年で、その前は封泥や粘土板に捺されていたため必要なかったんですね。

その頃から印鑑は大切なものとされていましたので、印影が滲まず、歳月を経ても変質や変色しないよう、油性顔料を使って作られてきました。
印章は柘植や象牙などの固くて油にも強い材料でしたから、相性が抜群だったんですね。
つまり印章を長く正確に残すため、油性顔料を使って開発されたのが、朱肉です。

ついでに書きますと、なんで朱肉は朱色なのか?

これは諸説ありますが
・1つは、朱肉が開発された古代中国では、金・銀についで貴重な「朱砂」を高貴な色とされていたから。
朱は変質や変色をしないから永遠の象徴とされ、高貴の象徴として選ばれたという説。
・2つ目は、朱色は血の色、そして血は神聖なものだから。
春秋時代の中国では、諸侯の盟約の際に牛などの生贄の血を信の証明として飲みあう習慣があり、この思想から印の代わりに血で拇印を捺す「血判」が生まれ、この血の赤が表す信義、信頼という思いから、朱色になったという説。

いずれにしてもここからも、印は大切な証とされてきたことが分かりますね。

スタンプ台はゴム印の多様な用途に合わせるもの

非常に永い歴史のある朱肉に対してスタンプ台は比較的新しく、ゴム印の鋳造技術が確率した明治20年頃と言われています。
また朱肉との大きな違いは成分にあります。

油性顔料のみに朱肉に対して、「水性染料」「水性顔料」「油性染料」「油性顔料」の4種類。
油性と水性の違いは溶剤、つまり色素を溶かしたり分散させる液体の性質の違いで、染料と顔料は色素の性質に違いによります。
染料は水に溶け、色素の分子が溶剤よりも小さいため、滑らかで鮮やかで色数も多いけれども、顔料に比べて耐水性や耐光性は劣り、紙に染み込むため滲みやすいのが特徴です。
対して顔料は溶剤に溶けず、色素の分子が溶剤より大きいため、色素が表面に残った状態で乾燥します。紙に染み込みにくいため滲みが少なく、乾燥すると耐水性や耐光性などに優れ、長期間の保存でも安心です。

非常にややこしんですけど、紙に印章を捺すことに特化した朱肉に対して、金属や布や革などの多様な用途にも捺せるように開発されたのがスタンプ台です。

様々な種類の捺印したい対象物に対応するため、4種類を駆使して対応し、またそこにメーカーごとの違いもあって、種類も多種多様になっています。
また年々技術の進歩によって高性能化され、同じ商品名でも成分が違っていたりもしていて、私たちも混乱する時があります。
いずれにしても昔から変わらない朱肉に対して、日進月歩で変化しているのがスタンプ台になります。

間違えた場合の問題

ここまでは朱肉とスタンプ台の違いについてご説明してきました。
では次に、組み合わせを間違えてしまった場合の問題点をご紹介します。

ゴム印に朱肉を使った場合

朱肉は油性顔料です。
この油がゴムに良くない。
結論から申し上げますと、朱肉の油はゴムを溶かしたり膨張、つまり変形させてしまいます。

その変形の強さを表す例として、例えば印材の特性でもお話していますが、柘植のような固い木でも朱肉の油で傷んでしまいます。
イメージとしては、木の中に朱肉の油が染み込んで柔らかくなり、それによって印面の摩滅だったり淵の欠けに繋がり、頻繁に捺印する方は1年でダメになったりもします。
柘植ですらそんな感じですから、柔らかいゴムに対してはさらに良くないのは火を見るよりも明らかです。

よくあるのが、ゴムの角印なんかを朱肉で捺しちゃうパターン。
ゴムの角印は安いですけど、この使い方では1年も持たないのでご注意を。

ただしゴム印には耐油の黒ゴムがあります。
そのためどうしても朱肉で捺したい場合は、耐油ゴムでお作りください。
または朱色のスタンプ台を使う方法もあります。

色合いは雰囲気は朱肉には全く及びませんけど、すでに赤ゴムで作ってしまっている場合は、緊急用にお使いください。

印章にスタンプ台を使った場合

油の強い朱肉でも大丈夫な印材なら、ゴム印でも使えるスタンプ台を使っても問題ないように思えます。
ところがこれはこれでまた別の問題が発生します。
問題なのは染料系。
染料は粒子が小さいため紙に染み込みやすいとお話ししましたが、同じ理由で印材に染み込みやすくなります。
具体的には、染料スタンプ台を印材に使用すると、印材が色素を吸い上げて変色してしまいます。

こちらも印材の特性でお話ししていますが、朱肉の油も象牙などは吸い上げます。
粒子の大きな顔料系でもそうなるわけですから、小さな染料系があっという間に変色させるのはなんとなくご理解いただけると思います。

大切な象牙が真っ黒になっては目も当てられません。
漂白する方法もがあることはあるんですが、印材を痛めるため、お預かりしての対応はメーカーさんが行ってくれないんですね。
そのため残念ながら、そのままの状態でお使いいただくしかなくなってしまいます。

最後に

以上が朱肉とスタンプ台の相性になります。
今回書いたようの複雑な内容はさておき、大前提は変わりませんので改めて記載しておきます。

  • 朱肉=印章(印鑑)
  • スタンプ台=ゴム印

これを間違えてしまうと、あっという間に印を痛めてしまいます。

印章だけでなく、ゴム印だって会社の顔です。
すり減ったり摩滅していては、いい加減な印象を与えてしまいますからね。
正しく使って、御社様のブランディングにお役立てください。

 

 

鈴印

〜印を通してお客様の価値を高めたい〜

鈴木延之
代表取締役:株式会社鈴印

1974年生まれ。
A型Rh(+)

1932年創業、有限会社鈴木印舗3代目にして、現プレミアム印章専門店SUZUIN代表取締役。専門店として、印章(はんこ)を中心としたブログを毎日発信。本業は印章を彫る一級印章彫刻技能士。
ブログを書き出したきっかけは、私の親父が店頭で全てのお客様に熱く語っていた印章の価値や役割そして物語を、そして情報が散見する中で印章の正しい知識を、少しでも多くのみなさまに知っていただきたいから・・・
だったのに、たまに内容がその本流から全く外れてしまうのが永遠の悩み♡

一級印章彫刻技能士
宇都宮印章業組合 組合長
栃木県印章業組合連合会 会長
公益社団法人全日本印章業協会 ブロック長

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