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老舗印舗店の3代目

宇都宮市中心部の商店が減少する中、家業の印舗店を継いだ鈴木延之さん(29)=写真左、駅前通り丁目=72年間続く“宮の橋のはんこ屋”三代目。
印章技術展で金賞を受賞するなど五年間の修行を経て故郷に戻り、父の晴夫さん(55)の下で接客を学んでいる。
延之さんは「印鑑は人生の節目に買い求めるもの。お客さまのイメージを超えるものをプロとして提供したい」と話す。 晴夫さんは「高校卒業まで跡を継いでほしいと言ったことはない。強制しなかったのが良かった」と三代目誕生に目を細めている。

印章技術展で金賞

宇都宮市出身で、現在、都内の印鑑製造会社に勤務する鈴木延之さん=東京都在住=がこのほど、「第四十八回大阪府印章技術展覧会」(大阪府印章業協同組合主催)の「書道半紙之部」で金賞を受賞した。同大会は歴史ある大会で、鈴木さんは応募二回目での快挙。いずれは市内で両親が経営する印舗店を継ぐ予定で、「受賞を励みに、今後も技術の向上を目指しがんばりたい」と話している。
鈴木さんの実家は、宇都宮市駅前通二丁目にある株式会社 鈴印。家業を継ぐための修行として、二年目、現在の会社に就職、「荒彫り」と呼ばれる作業を行いながら印鑑の基礎智識や製造工程を学んでいる。
象牙やゴムなどの印材への字入れ、荒彫り、仕上げと続く工程の中で、第一に必要とされるのが書道の技術。大会は「木口密刻」や「ゴム普通」など、印鑑製造を中心とした十一部門で開催されたが、鈴木さんは、会社で勉強している書道部門に応募した。
受賞作品は、課題の語句「萬物不能移」を篆(てん)書体で書いたもの。篆書は「印鑑の基本の書体」で、職場の上司の手本を参考に二週間で仕上げた。
見事、書道部門の一位に輝いた鈴木さんだが、部門への応募数は約二十点で、「受賞はうれしいけれど、この数からも、後継者不足を実感する」と複雑な表情。二代目父親晴夫さんも、「大量生産の時代だけに、物品を売るだけでは専門店は生き残れない。技術の裏付けとなるための勉強が必要」と話す。
修行はあと三年の見込み。鈴木さんは、「婚姻届のように印章ひとつで決まる人生もあり、製造に妥協はできない。確かな技術を身に付け、印象の持つ重みを大勢の人に伝えたい」と意欲に燃えている。

はんこの世界 伝えたい

80年以上続く老舗ハンコ店。3代目の鈴木延之代表(38)は、「はんこは人生の節目に必要なもの。その価値をしっかり伝えたい」と強調する。
彫刻技術を競う印象技術展で金賞を受賞するなど、高い技術を持つ鈴木代表。機械彫りの印と、鈴木代表が手掛けた印の印影を比べると、手彫りの印で押した方がはっきりと写る。「手間暇をかけて仕上げるから、何十年と使ってもへたりが少ない」と自信がある。
新たなファンを獲得するため、クリスタルビーズ・スワロフスキーで飾った「デコシャチハタ」を手掛けた。「プロのネイリストにお任せし、デザインにこだわった。プレゼントとして人気が出始めています」と笑う。
最も力を入れているのが、はんこに関する情報発信だ。「きちんとした実印を使うことで自分の人柄を示し、相手の信頼を得られる。特に若い世代に実印の意義が十分に伝わっていないので、ブログやフェイスブックを毎日更新しています」。
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